昨日のBioTodayニュースレターの前書きで、マルファン症候群ではTGFβシグナルの増強が動脈瘤の原因である可能性が高いが、Loeys-Dietz syndromeの動脈瘤についてはTGFβシグナルが亢進しているかどうかはまだはっきりとはしていないと紹介しました。
昨日の前書きはこちら→ http://report.biotoday.com/355.phpに掲載しています。
マルファン症候群でTGFβシグナルが増強していることは以下のマウス実験の報告で示唆されていますし、その他の動物実験でもTGFβシグナル増強が示唆されています。
http://www.biotoday.com/view.cfm?n=12476
一方、マルファン症候群患者にTGFBR2変異が関与することを示した以下の報告では、
Heterozygous TGFBR2 mutations in Marfan syndrome. Nat Genet. 2004 Aug;36(8):855-60. Epub 2004 Jul 4.
TGFBR2に認められた変異は“機能喪失変異(loss-of-function)”であったことが示されています。
つまり、動物実験と臨床観察結果が一致していません。
マルファン症候群とオーバーラップする疾患・Loeys-Dietz症候群患者に認められたTGFBR1またはTGFBR2遺伝子の変異もloss-of-functionであったとの結果となっています。
A syndrome of altered cardiovascular, craniofacial, neurocognitive and skeletal development caused by mutations in TGFBR1 or TGFBR2. Nat Genet.2005 Mar;37(3):275-81. Epub 2005 Jan 30.
ただし、これらの変異をヘテロに持つ細胞はTGFβに対する反応性が障害されていませんでしたし、1人の患者では大動脈でのTGF-β活性は逆に亢進していることが確認されています。
つまり、Loeys-Dietz症候群でも、loss-of-function変異でありながら機能は障害されていない、または逆に機能が亢進しているという矛盾した知見が得られています。
以上、マルファン症候群やLoeys-Dietz症候群に関する動物実験の結果と臨床での知見を総合すると、キナーゼ活性を有するTGFβ受容体の遺伝子に認められた変異は、機能損失変異でありながらTGFβシグナリングは活性化しているのではないかと思います。
さて、分野は異なりますが、日周期に関する研究で、特定の変異は基質に応じて機能亢進となることもあれば機能損失にもなりうることが証明されています。
▽数学的モデル化により日周期タンパク質・カゼイン・キナーゼ遺伝子変異の反対の役割が明らかになった
http://www.biotoday.com/view.cfm?n=14037
TGFβシグナリングについても、マルファン症候群やLoeys-Dietz症候群に認められたTGFβ受容体の機能損失変異は、特定の条件においてTGFβ受容体下流のTGFβシグナリング活性を亢進させている可能性があるのではないかと清宮は思っています。
そんな可能性を示唆する報告がありましたら、教えていただければ幸いです。このメールへの返信で清宮宛にメールが届きます。(終)
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