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2006年07月30日

Domino paired kidney donation

今日のBiotodayニュースレターの前書きはLancetのARTICLESに関する報告ではなく、LancetのDepartment of Ethicsの項に掲載された以下の報告を紹介します。

Domino paired kidney donation: a strategy to make best use of live non-directed donation. The Lancet 2006; 368:419-421
 
身内に関わらず、必要な人に自分の腎臓の片方を提供したいと考えている慈悲深い腎臓提供者が存在します。そのような人をLiving non-directed donor、LNDドナーといいます。

移植腎臓が足りていないという現状を鑑みるに、このLNDドナーから提供される腎臓は最大限に有効利用しなければなりません。

この最大限の有効利用法として“Domino paired kidney donation”という戦略が上記のLancet報告で提唱されています。ここでは便宜上この戦略を“ドミノ戦略”と呼びます。

この戦略では、LNDドナー(Aさん)の腎臓は、腎臓提供を申し出ている人がいるがその腎臓が自分には合わない腎臓移植希望者とマッチングさせます。

このマッチングで適合となった腎臓移植希望者(Bさん)にAさんの腎臓が移植されます。

一方、Bさんに腎臓を提供したいと考えていた人(Cさん)の腎臓は、Cさんの腎臓と合致する順番待ちリスト最上位者(Dさん)に移植されます。

こうすることで、誰でもよいので困っている人に腎臓をあげたいというLNDドナーの腎臓だけでなく、特定の人に腎臓を上げたいと考えている人(この場合Cさん)の腎臓も最大限に利用することができます。

LNDドナーの腎臓を用いた移植(LND移植)は、1998年に初めてアメリカのUNOS(United Network of Organ Sharing)に報告されました。以来、302件のLND移植が実施されています。

もし最初のケースから今回新たに提唱されたドミノ戦略が実施されていたとしたら、302件ではなくて583件のLND移植が達成されていたと予想されました。

この報告の著者等の経験では、LNDドナーはこのドミノ戦略を好意的に受け止めているとのことです。

今後ドミノ戦略の実用化に向けてLNDドナー、LNDドナーと対になるドナー、一般国民の見解を探っていく必要がありますが、LND移植のベネフィットは量的・質的にドミノ戦略で向上することが今回のLancet報告で確認されています。

ドミノ戦略の提唱を含めて、移植を公平かつ合理的に実施していこうとするアメリカ人の真剣な努力はすばらしいと思います。

こういう全体的な努力は日本の移植医療の世界にも必要なんじゃないかと思います。

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 http://www.biotoday.com/reader_entry.cfm

2006年07月27日

血球凝集抑制とは?

インフルエンザウイルスは赤血球を凝集させる性質があります。しかし、血液中に抗体が存在しているときには血球凝集反応は起きません。この反応を指標にして血液中に抗インフルエンザ抗体がどれだけできているかを調べることを赤血球凝集抑制(HI)試験といいます。

HI抗体価が40倍を超えていた場合には、“有効防御免疫”状態(セロプロテクション状態、seroprotection)にあるとみなされます。

2006年07月23日

妊婦がスタチンを使用したときの子供の先天異常

▽メバロン酸経路は先天性心疾患に関与している
http://www.biotoday.com/view.cfm?n=14201

上記の報告を受けて先天異常とスタチンの関連を検索。以下の報告を検出。

Pregnancy outcomes after maternal exposure to simvastatin and lovastatin. Birth Defects Res A Clin Mol Teratol. 2005 Nov;73(11):888-96
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=pubmed&cmd=Retrieve&dopt=AbstractPlus&list_uids=16163683&query_hl=11&itool=pubmed_docsum

Merck社の研究者等がMerck社のデータベースをレビューし、妊娠中にシンバスタチンとロバスタチンに暴露した妊婦の子供の転帰を調査。

シンバスタチンやロバスタチンで先天異常(先天性奇形)が増えることは無いという結論。

一方以下のような症例報告がNEJMに掲載されている。妊娠第1期のスタチン暴露で中枢神経と手足の異常認められた。

Central nervous system and limb anomalies in case reports of first-trimester statin exposure. N Engl J Med. 2004 Apr 8;350(15):1579-82
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?itool=abstractplus&db=pubmed&cmd=Retrieve&dopt=abstractplus&list_uids=15071140

また、以下の報告では妊娠中のスタチン使用はできるだけ避けるべきと記載されている。

Statins: beware during pregnancy. Prescrire Int. 2006 Feb;15(81):18-9
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=pubmed&cmd=Retrieve&dopt=AbstractPlus&list_uids=16548110&query_hl=13&itool=pubmed_docsum

2006年07月22日

αシヌクレインと分子モーター

以下の報告を受けて、αシヌクレインと分子モーターの関連を調べてみた。

▽運動ニューロン変性に関与する細胞内分子モーター-・ダイニン-ダイナクチン複合体は微小管を両方向に移動する
http://www.biotoday.com/view.cfm?n=14169

Medlineを検索したところ、以下の報告を検出。

▽Molecular motors implicated in the axonal transport of tau and alpha-synuclein. J Cell Sci. 2005 Oct 15;118(Pt 20):4645-54. Epub 2005 Sep 21.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=pubmed&cmd=Retrieve&dopt=AbstractPlus&list_uids=16176937&query_hl=12&itool=pubmed_docsum

神経内でのαシヌクレインの輸送にはダイニンやキネシンなどの分子モーターが関与していることが示唆された。

またパーキンソン病とダイニンを検索したところ、以下の報告がヒット。

▽The deacetylase HDAC6 regulates aggresome formation and cell viability in response to misfolded protein stress. Cell. 2003 Dec 12;115(6):727-38.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=pubmed&cmd=Retrieve&dopt=AbstractPlus&list_uids=14675537&query_hl=14&itool=pubmed_docsum

凝集体の一部として、ポリユビキチン化された折り畳み不足のタンパク質とダイニンに結合する微小管関連脱アセチル化酵素・HDAC6を同定。

2006年07月18日

富める国の人間にアフリカの女性器切除を批判する資格はない

15日のBMJに、女性器切除(FGM)の自己報告と実際のFGMの程度は合致しないことや、WHOのFGM分類はFGMの実際の重症度と合致しないことを示す研究成果が発表されています。

 ▽女性器切除(FGM)の自己報告を信頼してはならないし、WHOのFGM分類はFGMの実際の重症度と合致しない
  http://www.biotoday.com/view.cfm?n=14078

一見地味だけどとても有意義な研究だと思います。こういう地道な労力を厭わない研究が世界を変えていくんだろうと思います。

さて、

この報告に関連したBMJ誌のEditorialに、アイルランドのRonán M Conroy氏が、富める国の人間が伝統的に実施されているFGMを非難する資格が果たしてあるのか?という論調の報告を発表しています。

西欧諸国では19世紀に不眠、不妊、不幸せな結婚、精神疾患の治療と称して女性の割礼が実施されてきたという紛れもない歴史があります。

また、Royal College of Surgeonsの学長まで上り詰めた著名なJonathanHutchinson氏はマスターベーションによる精神的に有害な作用を防ぐために、割礼や割礼以上に過激な方法を熱心に勧めていました。

もっとも最近では、1953年にケンタッキー州で12歳の女性に対して医学的な割礼が施されています。

Conroy氏は、このような、性的に抑圧的なFGMの使用の歴史が、他の国々の文化におけるFGMの役割の誤解を招いてしまっているのではないかと考えています。

富める国での“不適切な”割礼の使用は今ではすっかり解消しているのでしょうか?そうともいえないようです。

現在、膣の形を変えたり、外陰部をより子供のように見せる新手の美容外科が“先進国”で行われるようになってきました。

つまり女性は、男性のマスターベーションの幻想にフィットするように、損なわれているのです。

これぞ、我々の文化における手術による“最新”の女性虐待の形かもしれません。Conroy氏は、伝統的なFGMを批判する前に、この美容的なFGMの問題に取り組んだらどうか?と疑問を投げかけています。

Conroy氏もEditorialで紹介しているように、大人であることのシンボルまたは男性・女性として社会に参加するための通過儀礼として、伝統的なFGMは文化的に重要な意味を担っています。

したがって、FGMの根底を流れる文化的意義を攻撃するのは賢い方法ではなく、それよりは、通過儀礼の形式をどうかえていくかに注意を傾けた方が良いとConroy氏は主張しています。

Conroy氏は決してFGMを容認しようといっているのではありません。一方的に批判するのではなく、概念を適切に認識した上でFGMの問題に取り組んでいく必要があると考えています。

Editorialの最後をConroy氏は以下のように結んでいます。

「WHOはFGMを“文化、宗教、その他の非治療的理由によって女性の外性器を全部または部分的に削除、あるいは女性器に傷を付けること”と定義しています。

“病気の行商”を通じて、自然な生物学的な差を欠損と決め付けることで女性に恐怖心を与え、FGMを推進してきたのは他でもない西洋医学なのです。」

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