Domino paired kidney donation
今日のBiotodayニュースレターの前書きはLancetのARTICLESに関する報告ではなく、LancetのDepartment of Ethicsの項に掲載された以下の報告を紹介します。
Domino paired kidney donation: a strategy to make best use of live non-directed donation. The Lancet 2006; 368:419-421
身内に関わらず、必要な人に自分の腎臓の片方を提供したいと考えている慈悲深い腎臓提供者が存在します。そのような人をLiving non-directed donor、LNDドナーといいます。
移植腎臓が足りていないという現状を鑑みるに、このLNDドナーから提供される腎臓は最大限に有効利用しなければなりません。
この最大限の有効利用法として“Domino paired kidney donation”という戦略が上記のLancet報告で提唱されています。ここでは便宜上この戦略を“ドミノ戦略”と呼びます。
この戦略では、LNDドナー(Aさん)の腎臓は、腎臓提供を申し出ている人がいるがその腎臓が自分には合わない腎臓移植希望者とマッチングさせます。
このマッチングで適合となった腎臓移植希望者(Bさん)にAさんの腎臓が移植されます。
一方、Bさんに腎臓を提供したいと考えていた人(Cさん)の腎臓は、Cさんの腎臓と合致する順番待ちリスト最上位者(Dさん)に移植されます。
こうすることで、誰でもよいので困っている人に腎臓をあげたいというLNDドナーの腎臓だけでなく、特定の人に腎臓を上げたいと考えている人(この場合Cさん)の腎臓も最大限に利用することができます。
LNDドナーの腎臓を用いた移植(LND移植)は、1998年に初めてアメリカのUNOS(United Network of Organ Sharing)に報告されました。以来、302件のLND移植が実施されています。
もし最初のケースから今回新たに提唱されたドミノ戦略が実施されていたとしたら、302件ではなくて583件のLND移植が達成されていたと予想されました。
この報告の著者等の経験では、LNDドナーはこのドミノ戦略を好意的に受け止めているとのことです。
今後ドミノ戦略の実用化に向けてLNDドナー、LNDドナーと対になるドナー、一般国民の見解を探っていく必要がありますが、LND移植のベネフィットは量的・質的にドミノ戦略で向上することが今回のLancet報告で確認されています。
ドミノ戦略の提唱を含めて、移植を公平かつ合理的に実施していこうとするアメリカ人の真剣な努力はすばらしいと思います。
こういう全体的な努力は日本の移植医療の世界にも必要なんじゃないかと思います。