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2006年08月29日

TGFβシグナルとマルファン症候群、Loeys-Dietz症候群

昨日のBioTodayニュースレターの前書きで、マルファン症候群ではTGFβシグナルの増強が動脈瘤の原因である可能性が高いが、Loeys-Dietz syndromeの動脈瘤についてはTGFβシグナルが亢進しているかどうかはまだはっきりとはしていないと紹介しました。

昨日の前書きはこちら→ http://report.biotoday.com/355.phpに掲載しています。

マルファン症候群でTGFβシグナルが増強していることは以下のマウス実験の報告で示唆されていますし、その他の動物実験でもTGFβシグナル増強が示唆されています。

 http://www.biotoday.com/view.cfm?n=12476

一方、マルファン症候群患者にTGFBR2変異が関与することを示した以下の報告では、

Heterozygous TGFBR2 mutations in Marfan syndrome. Nat Genet. 2004 Aug;36(8):855-60. Epub 2004 Jul 4.

TGFBR2に認められた変異は“機能喪失変異(loss-of-function)”であったことが示されています。

つまり、動物実験と臨床観察結果が一致していません。

マルファン症候群とオーバーラップする疾患・Loeys-Dietz症候群患者に認められたTGFBR1またはTGFBR2遺伝子の変異もloss-of-functionであったとの結果となっています。

A syndrome of altered cardiovascular, craniofacial, neurocognitive and skeletal development caused by mutations in TGFBR1 or TGFBR2. Nat Genet.2005 Mar;37(3):275-81. Epub 2005 Jan 30.

ただし、これらの変異をヘテロに持つ細胞はTGFβに対する反応性が障害されていませんでしたし、1人の患者では大動脈でのTGF-β活性は逆に亢進していることが確認されています。

つまり、Loeys-Dietz症候群でも、loss-of-function変異でありながら機能は障害されていない、または逆に機能が亢進しているという矛盾した知見が得られています。

以上、マルファン症候群やLoeys-Dietz症候群に関する動物実験の結果と臨床での知見を総合すると、キナーゼ活性を有するTGFβ受容体の遺伝子に認められた変異は、機能損失変異でありながらTGFβシグナリングは活性化しているのではないかと思います。

さて、分野は異なりますが、日周期に関する研究で、特定の変異は基質に応じて機能亢進となることもあれば機能損失にもなりうることが証明されています。

 ▽数学的モデル化により日周期タンパク質・カゼイン・キナーゼ遺伝子変異の反対の役割が明らかになった
  http://www.biotoday.com/view.cfm?n=14037

TGFβシグナリングについても、マルファン症候群やLoeys-Dietz症候群に認められたTGFβ受容体の機能損失変異は、特定の条件においてTGFβ受容体下流のTGFβシグナリング活性を亢進させている可能性があるのではないかと清宮は思っています。

そんな可能性を示唆する報告がありましたら、教えていただければ幸いです。このメールへの返信で清宮宛にメールが届きます。(終)

 ▽有料会員募集中
  http://www.biotoday.com/reader_entry.cfm

 ▽神経工学投資ニュースレター2006年5月31日号 特集【パーキンソン病】を
  販売しています。パーキンソン病に関心がある方にはお勧めです。
  http://www.biotoday.com/SC/SC_group_itemlist.cfm?userid=biotoday

何がおきるかわからない

発癌物質の体内での挙動を考える上でとても重要な報告が発表されました。

http://www.biotoday.com/view.cfm?n=14760

ビスフェノールに限らず、他の物質でも同様な体内での増強メカニズムが存在するかもしれません。既存のメカニズムでは説明できないような現象があったら、深く調べていくと思わぬ重要な発見があることを改めて痛感。

2006年08月27日

Specialty board certification and clinical outcomes: the missing link

専門認定と良好な転帰が相関するという結果が得られたことを報告しているレビュー文献です。

Specialty board certification and clinical outcomes: the missing link.
Acad Med. 2002 Jun;77(6):534-42.

認定医による治療の方が患者転帰が良いことを示した報告

Norcini JJ, Lipner RS, Kimball HR. Certifying examination performance and patient outcomes following acute myocardial infarction. Med Educ 2002;36: 853-9.

Chen J, Rathore SS, Wang Y, Radford MJ, Krumholz HM. Physician board certification and the care and outcomes of elderly patients with acute myocardial infarction. J Gen Intern Med 2006;21: 238-44.

Prystowsky JB, Bordage G, Feinglass JM. Patient outcomes for segmental colon resection according to surgeon's training, certification, and experience. Surgery 2002;132: 663-70.

Silber JH, Kennedy SK, Even-Shoshan O, Chen W, Mosher RE, Showan AM, et al. Anesthesiologist board certification and patient outcomes. Anesthesiology 2002;96: 1044-52.

2006年08月26日

Loeys-Dietz症候群とTGFβR

昨日発行のNEJM誌にLoeys-Dietz症候群(Loeys-Dietz syndrome)の臨床症状、転帰、臨床症状とTGFβR変異の関連などを調べた成果が報告されています。
 
 ▽TGFβR1やTGFβR2の遺伝子変異で進行性の動脈瘤が発現する
 http://www.biotoday.com/view.cfm?n=14690

TGFβシグナル伝達は、マルファン症候群、家族性胸部大動脈瘤と解離、動脈解離や破裂を伴う小児疾患などにも関与しています。特に、動脈瘤や解離への関与が示されています。


マルファン症候群の大動脈瘤にはTGFβシグナルが重要な役割を担っていることが分かっており、TGFβシグナル伝達を阻害するロサルタンがマルファン症候群の大動脈瘤を正常化することがマウスで確認されています。

 http://www.biotoday.com/view.cfm?n=12476


マルファン症候群の場合、TGFβシグナルの増強が動脈瘤の形成に関与していることが示されています。


しかし今回NEJMで取り上げられてLoeys-Dietz syndromeについては、TGFβシグナル伝達亢進を示唆するエビデンスは存在するものの、TGFβシグナルの増強が原因であるかどうかは明確ではないようです。


したがって、ロサルタンがLoeys-Dietz syndromeの動脈瘤の有望な治療薬でああると結論するにはもう少し研究が必要でしょう。


マルファン症候群については、アメリカNational Institutes of Healthがスポンサーとなって、ロサルタンの臨床試験が予定されています。


今回のNEJMの研究で、Loeys–Dietz syndrome患者は非常に短命(22.6歳)であることが示されています。

マルファン症候群でロサルタンという有望な薬剤が見つかったように、Loeys–Dietz syndromeでも早く有望な薬剤が見つかるといいなと思います。

それにはまずTGFβシグナルの役割を明確にする必要があるでしょう。

2006年08月15日

patient at risk for re-hospitalisation(PARR)

Patients at Risk of Re-hospitalisation (PARR) case finding toolは、個々の患者の再入院リスクを0-100のスコアで評価するアルゴリズムです。再入院予測の主要な要素は年齢、性別、人種、前の入院、臨床状態です。

PARRで使用される変数は以下の通りです。

Alcohol related diagnoses

Cerebrovascular disease

Chronic obstructive pulmonary disease

Connective tissue disease/rheumatoid arthritis

Developmental disability

Diabetes

Ischaemic heart disease

Peripheral vascular disease

Renal failure

Sickle cell disease

Previous admission for respiratory infection

Number of different treatment specialists seen

Age 65-74, age 75+

Sex

Ethnicity

Previous admission for a reference condition

Number of emergency admissions in previous 90, 180, and 365 days

Number of non-emergency admissions in previous 365 days

Total number of previous emergency admissions in previous three years

Average number of episodes per spell for emergency admissions

Observed:expected ratio for practice style sensitive admissions in ward of residence

Observed:expected ratio for rate of readmissions for hospital of current admission

Diagnostic cost groups/hierarchical condition category

PARRの詳細は以下を参照ください。
Patients at Risk of Re-hospitalisation (PARR) case finding tool