プラセボの実質的な効果
昨日の続きです(文中で引用した文献はこのニュースレターの最後の「前書きの引用文献」の欄に記しています。+αつきです)。
◇プラセボはどうやって鎮痛作用を発揮している?
プラセボが体にどんな影響を与えて鎮痛作用を発揮しているかを調べた報告が2004年2月のScience誌(以下、Science報告)に発表されています(1)。
この報告には、視床、島、前帯状皮質等の痛み感受性脳領域の活動の低下とプラセボによる鎮痛作用が相関したという実験結果が紹介されています。
また、プラセボ使用すると、痛みの予知段階において前頭前野の活動が上昇することが分かりました。
この結果から、プラセボは体に物理的な作用を及ぼさずとも、脳の活動を変化させることで、痛みの感じ方に影響を与えうることが証明されました。
◇Science報告とは異なる結果も発表されている
Science報告と同様な実験をしたものの、Science報告とは異なる結果が得られたという報告が最近のJ Neurosci誌に発表されています(2)。
したがって現時点では、Science報告が完全に正しいとはいえないようです。
ただし、ScienceとJ Neurosciの報告から、プラセボが脳の神経活動に影響を与えるということは確実にいえそうです。
J Neurosci誌の著者等は、実験の結果から以下のように結論しています。
「placebo analgesia may be configured through multiple brain pathways and mechanisms(複数の脳経路・メカニズムを介してプラセボによる鎮痛作用が生じる)」
この複数の経路やメカニズムを一つずつ読み解いていくことで、プラセボ効果の本性が明らかになるでしょう。
そしてプラセボ効果の本性を探ることで、新しい鎮痛剤が開発できる可能性があります。
プラセボ効果に関する研究が進展することを期待したいと思います。
以上、今日の前書きでした。
さて、次回(来週月曜日)の前書きでは、プラセボとパーキンソン病の意外な関係を明らかにした報告を紹介します。
お楽しみに!
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(1)Placebo-induced changes in FMRI in the anticipation and experience of pain. Science. 2004 Feb 20;303(5661):1162-7.
(2)Brain Activity Associated with Expectancy-Enhanced Placebo Analgesiaas Measured by Functional Magnetic Resonance Imaging. The Journal of Neuroscience, January 11, 2006, 26(2):381-388
◇その他の研究
このほかにも、痛覚に対するプラセボの影響を調べた報告はけっこうあります。
例えば、2002年のScience誌には、プラセボとオピオイドによる鎮痛作用が共通の神経ネットワークに影響を与えることを示唆した報告が発表されています(3)。
最近では、1月11日のJ Neurosci誌にプラセボは脊髄の痛覚処理に変化を与えるという実験結果が発表されています(4)。
(3)Placebo and opioid analgesia-- imaging a shared neuronal network. Science. 2002 Mar 1;295(5560):1737-40. Epub 2002 Feb 7.
(4)Placebo-Induced Changes in Spinal Cord Pain Processing. The Journal of Neuroscience, January 11, 2006, 26(2):559-563;