人工妊娠中絶薬・RU 486は安全か?
プロゲステロンを阻害する人工妊娠中絶薬・RU 486(mifepristone)の服用中にClostridium sordellii感染で死亡したアメリカ人女性4人の症例報告が2005年12月1日のNEJM誌に掲載されています(NEJM Volume 353:2352-2360 December 1, 2005 Number 22)。
1996年にPopulation CouncilがアメリカFDAにRU 486を承認申請し、54ヶ月という異例の長さの審査期間を経て2000年9月28日に承認されました。
オリジナルの承認では「中絶が不完全になり、追加の手術的処置が必要になるリスクがある」というブラックボックスワーニングがついていました。
2004年11月には、FDAは「初期妊娠の終結に伴って致死性の合併症(子宮外妊娠の破裂や敗血症ショック)が生じる恐れがある」というブラックボックスワーニングを追加しました。この改定時には、RU 486使用中に死亡した女性3例をアメリカFDAはRU 486の情報ページ(http://www.fda.gov/cder/drug/infopage/mifepristone/default.htm)に追加しました。1例は子宮外妊娠の破裂による死亡で、2例は敗血症ショックによる死亡でした。
続く2005年7月19日、敗血症ショックによる新たな4例の死亡が認められ、ブラックボックスワーニングが更に改定されました。この時の改定では、4例のうちの2例の敗血症ショックの原因はClostridium sordelliiであり、これらの感染に伴って他の感染症とは一線画す独特の徴候・症状を示すという注意が促されました。独特の特徴とは、熱はなく、抵抗性の低血圧、血液濃縮、複数の漿膜腔の滲出、著明な白血球増加という現象をさします。カナダの女性も2001年に同じような状況で同じバクテリアが原因で死亡しています。
NEJM誌に掲載された4例がいずれも若くて健康な女性で、中絶に成功していました。臨床症状は典型的ではなく不可解でした。というのも、この治療で一般的な筋けいれんをおこし、臨床症状を呈してからすぐに死亡するという経過を辿ったからです。
製造元のDanco Laboratorieによると、アメリカで承認されてから460,000件の中絶にRU 486が使用されました。しかしこの数が正確かどうかはわかりません。
200mgの錠剤を3錠服用するというのがFDAの承認用法です。しかし安全性と有効性の解析から、WHOは一回の中絶に200mgを使うように進めています。その後は、アメリカの多くの団体は200mgを使うようになっています。Danco Laboratorieは600mgではなく200mgを使用したケースを想定して460,000件と推定しています。この結果から、感染による死亡のリスクは10万件に1件未満と示唆されました。一方妊娠の維持に伴う死亡のリスクはこの8-9倍と推定されています。
しかし、妊娠全体での死亡率と比較するよりも、妊娠中絶時の死亡リスクとRU 486による死亡リスクを比較した方が適切です。アメリカ国内での妊娠中絶による死亡率はおよそ10万件に1件です。このリスクは妊娠期間全体でのリスクです。もし妊娠期間毎に中絶による死亡リスクを算出した場合、妊娠8週までに中絶した場合の死亡リスクは10万件中0.1件、妊娠21週以降での死亡リスクは10万件あたり8.9件となります。RU 486は妊娠7週目までの使用ということで承認されていますので、リスクの比較では妊娠8週までの中絶での死亡割合0.1件/10万件が適切と考えられます。
‥> Reference
Fatal Infections Associated with Mifepristone-Induced Abortion. NEJM Volume 353:2317-2318 December 1, 2005 Number 22
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人工妊娠中絶薬・RU 486(mifepristone)の服用中にClostridium sordellii感染で死亡したアメリカ人女性4人の症例報告
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